ふじのくにCNFフォーラム

「ふじのくにCNF総合展示会」が開催 セルロースナノファイバーの主要企業が集結

オープンイノベーションへの取り組み

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全国からセルロースナノファイバー(CNF)関連の主要企業が静岡県に集結――2019年 11月19日に富士市で開催された「ふじのくにCNF総合展示会」(主催:ふじのくにCNFフォーラム、静岡県、富士市)を端的に表現するなら、このように言えるだろう。

セルロースナノファイバーは、優れた強度特性、チキソ性(攪拌など力が加わる間は粘度が低く、力が加わらないと粘度が高くなるといった特性)、保湿性・保水性などの特徴から様々な応用の可能性を秘めた新素材である。また、植物由来であるため、環境に優しい。

その原料となる紙・パルプの産業が集積している静岡県には、CNFのメーカーはもちろん、CNFを製造する機械のメーカーやCNFを活用した製品を開発・製造する企業といったCNFに関わる企業が数多く存在している(図1)。

図1●CNF関連産業と静岡県内の主なCNF関連企業

図1●CNF関連産業と静岡県内の主なCNF関連企業

ふじのくにCNF総合展示会は今年度で5回目の開催となったが、静岡県内のCNF関連企業を中心に全国から71社の企業・団体が集まり、それぞれ自慢の製品や技術を披露した。また、最新のCNFの研究・開発動向に興味を持つ企業の製品企画担当者や技術者といった関係者が全国から1,061人来場し、会場の「ふじさんめっせ」は活況を呈していた。

来場者には講演資料に加えて、田子の月(富士市)のどら焼きが1個ずつふるまわれた(図2)。同社が製造するどら焼きの皮にはCNFが配合されており、来場者はしっとり、ふんわりとしたどら焼きの食感を実際に体験することが出来たようだ。

図2●会場で来場者にふるまわれた田子の月のどら焼き

図2●会場で来場者にふるまわれた田子の月のどら焼き

開場後ほどなく、CNF研究の第一人者である東京大学大学院の磯貝明教授による基調講演が行われた(図3)。

同教授の研究グループは「TEMPO触媒酸化」という化学反応と軽微な機械的解繊を組み合わせることで、パルプの主成分であるセルロースからCNFを作製することに世界で初めて成功した。この業績により、同教授は、2015年に「森のノーベル賞」とも言われるマルクス・ヴァーレンベリ賞をアジアで初めて受賞した。

今回、磯貝教授は「CNFで拓く静岡県の産業と未来社会-今後の展望と課題-」と題した基調講演で、バイオマス資源であるCNFを活用する意義、SDGsとの関わり、TEMPO触媒酸化法の概要やメリットなどを一般向けに説明。コストなどの課題を指摘するとともに、現状ではCNFの専用工場を建設するよりも、紙パルプ産業で集積された製造工場や技術を活用した方が効率的と示唆し講演を締めくくった。

図3●CNF研究の第一人者である磯貝明・東京大学教授の基調講演の様子

図3●CNF研究の第一人者である磯貝明・東京大学教授の基調講演の様子

多種多彩な製品や技術が百花繚乱

磯貝教授の基調講演に続いて、セミナー会場内では出展企業18社による製品や取組事例のプレゼンテーションが行われた。

相川鉄工(静岡市)は、リファイナー(解繊装置)などを含むCNF製造設備の概要を紹介した。1924年創業の同社は、紙パルプ原料調整設備を中心とした製紙機械やプラントの開発・設計、製造、販売を行っており、長年の経験や実績、技術力を活かしてCNF製造機械の市場への参入を果たした。

図4●CNFを活用したコンクリートポンプ圧送用先行剤「ルブリ」についての講演を行うタケ・サイトの代表取締役社長・武田雅成氏

図4●CNFを活用したコンクリートポンプ圧送用先行剤「ルブリ」についての講演を行うタケ・サイトの代表取締役社長・武田雅成氏

また、静岡発のベンチャー企業であるタケ・サイト(静岡市)は、土木・建設分野で必要不可欠ながら大量の産業廃棄物となってしまうコンクリートポンプ圧送用先行剤に着目、原材料にCNFを活用し、使用量の大幅削減を実現した新製品「ルブリ」のプレゼンテーションを行った(図4)。従来の先行モルタルでは、重量で約1tの量が必要となるが、同社のルブリなら20kgと従来比でわずか50分の1の量で済み、作業の効率化と低い環境負荷が同社製品の特長である。

展示スペースでは、CNFを活用した製品やCNFの製造機械などを各々のブースで紹介し、来場者との活発な商談や情報交換が行われた。

コーヨー化成(静岡市)は、静岡県産のバラとCNFを原材料としたミスト(霧)タイプの化粧水やボディクリームなどの化粧品を展示した(図5)。CNFの効果により長持ちする香りや塗り心地の良さと言った特徴があり、製品には、地元のシンボルである富士山の標高(3776m)にちなみ、No.3、No.7、No.76といった品番にするなど工夫を凝らしている。

図5●コーヨー化成がCNFを活用して開発した化粧品。長持ちする香りや塗心地の良さが特徴

図5●コーヨー化成がCNFを活用して開発した化粧品。長持ちする香りや塗心地の良さが特徴

また、住設メーカーのトクラス(浜松市)は、CNFを含む軽量かつ高強度の木材・プラスチック複合材(WPC)「ウッドナノプラス」を披露していた。耐衝撃性が同社従来品と比較して約1.5倍に向上したという。これにより、高い耐衝撃性が要求される自動車や機械などの部品をはじめとして、幅広い分野への用途拡大が可能になるとしている。

コストや供給体制などまだ課題も多いCNFだが、この分野のイノベーションが、静岡県で起きる可能性が高いことを今回のイベントで確認できた。「ふじのくに」発のCNF技術に今後も引き続き注目したい。

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