手漕ぎ自転車やパワーアシストスーツのフレーム、手術用鉗子などへ応用
現在、榛葉鉄工所が主力としている自動二輪車向けマフラーの海外市場は東南アジアなどの新興国の経済成長で拡大していることもあり、2008年に取引先の中・大型二輪車の海外生産増加とともに進出したタイ工場の生産量は右肩上がりで推移している。しかし「国内市場は、リーマンショック後、頭打ちが続いており、マフラーの売上高はピーク時の1/3以下にまで落ち込んだ」(榛葉氏)。そのため同社はここ数年、チタン製マフラーの開発・製造で培った技術をベースに、チタン、マグネシウムといった難加工材を使った部品の用途拡大に取り組んでいる(関連記事)。
例えば、パラリンピックの正式種目にもなった競技用ハンドバイク(手漕ぎ自転車)のフレームにチタンを採用、開発したハンドバイクそのものを2012年に発売した。時速30km以上のスピードで走る同競技において加速性能を高めるため、チタン・フレームで軽量化を図った。2014年には同社製ハンドバイクが国内レースで3位に入った。
医業機器分野での応用も検討している。榛葉鉄工所は静岡県内の中小企業4社で構成される協同組合「HAMING(ハミング)」に参加し、2012年から、軽量で錆びにくく金属アレルギーを起こしにくいチタンの特性を生かした鉗子などの手術用器具の共同開発に取り組んでいる。手術器具は、精密な曲面加工や細かな溶接が必要であるのに加えて、しなり具合など医師の好みに合わせることも必要になる。同社は、ここでも解析技術を駆使し、しなり具合を数値的に解析することで職人技ではなく工業的にこうしたハンドメイドに近い製品の開発・製造にも取り組む。
マグネシウム製部品の開発も進めている。榛葉鉄工所は浜松の地域企業約10社と共同で、フレームとシャフトにそれぞれマグネシウムやチタン合金を使用した世界最軽量クラスの車椅子の開発に参加した。同社は3D・CAD設計/CAE解析構造解析、設計、溶接を担当し、2016年4月からの量産に向け大きく貢献している。
このほか2015年9月にアクティブリンクから発売されたパワーアシストスーツにマグネシウムを使った榛葉鉄工所のフレームが採用された(図2)。体に装着して使用するパワーアシストスーツは、手足の動きを感知してモーターが作動し、身体への負担を軽くする器具である。アルミニウムより軽いマグネシウムを使うことでパワーアシストスーツの重量軽減に貢献した。
図2●パワーアシストスーツのマグネシウム製フレーム
「弊社は優秀な技術部隊を抱えており、顧客の課題を一緒になって解決できる。設計だけでなく、試作から量産まで対応することも可能だ。こうした強みを生かし、困ったら榛葉鉄工所に頼め!と言われるような会社を目指したい」、と榛葉鉄工所代表取締役の榛葉氏は今後の同社の目指すべき姿を語る。