機能性食品を栽培するレシピを作るための栽培システムを提供されると伺いました。
プロジェクトの中では、新開発の次世代栽培システムが利用できます。このシステムは、光、温度、湿度等の栽培条件を自由に変えられます。食物に対する人の好みはそれぞれです。甘いトマトが好きな人もいれば、酸味のあるトマトが好きな人もいます。マーケットインの考え方に基づき、例えばこの食味と健康増進機能の野菜を売り出したいという要望に基づき、様々な栽培条件を試しながら、最適な種苗の選択と栽培方法(レシピ)を作成することが可能になります。
個々の研究者が持つ優れた技術や栽培システムなどの機器が揃っているようですが、それらをどう有機的につなげていくかが重要になるのではないでしょうか。
その通りです。そこにはニーズとシーズ、研究とビジネスのマッチング、コーディネート機能が必要になります。オープンイノベーションを推進する仕組みを今回のプロジェクトの中に組み込もうと考えています(図2)。オープンイノベーションと言っても、人を集めただけで勝手にオープンイノベーションが起こるわけでも、プロジェクトが組成されるわけでもありません。その人たちをまとめるコーディネータが必要になります。こんな食物を作りたいというニーズに対応して、コーディネータが参加者を募り、開発チームを編成します。
来年までにコーディネータ組織を設けようと考えています。イノベーションセンターの中に設けるのがいいのか、外部のコンサルティング会社を活用するのがよいのか、検討中です。コーディネータには知識とネットワークが求められます。知識に関してはマーケット側のニーズと研究者側の技術に関する知識が必要になります。
作ったものの販路についてはどのようにお考えでしょうか。
国内はもちろん海外マーケットもターゲットに考えています。国内マーケットはゼロサムの世界です。海外に静岡県の農産物を届けたいと思います。ここでは海外市場へつなぐ人が必要になります。その機能も別途つくります。
海外へ展開するうえで、次世代栽培システムが有効に活用できます。海外の人が好む味覚や機能性に合わせた食物の栽培レシピを作成するのに使えます。
-プロジェクトに参加するためには沼津市にある施設への入居が前提でしょうか。
このプロジェクトは共同研究が基本です。もちろん施設に入居していただければそれに越したことはありませんが、入居しなくても共同研究は可能です。ただし、施設に入居すれば施設内でプロジェクトに参加している方々と相互に交流でき、そこから新しい展開が期待できます。それがオープンイノベーションの狙いでもあります。
最後に今後のプロジェクトの抱負をお聞かせください。
静岡県は、温暖で美しく豊かな自然環境に恵まれ、健康寿命世界一です。食品・飲料品製造出荷額は約2.4兆円(26年)、医薬品・医療機器生産額は0.9兆円(26年)、化粧品生産額は0.4兆円(27年)といずれも日本一を誇ります。農作物では茶、メロン、イチゴ、みかんなどの農芸品とも呼べる商品を生産しています。
こうした静岡県の場の力を活かし、背後に富士山、眼下に駿河湾という美しい地にイノベーションセンターを設置し、農食健分野の世界の英知を結集します。イノベーションセンターは単なる静岡県の拠点ではなく、日本の拠点、世界の拠点にしたいと考えています。それぞれの分野をリードする研究機関や研究者が入居し、そのネットワークを通じてほかの研究機関、研究者ともつながり、いろいろな人の知、それも異分野の知が集まることが不可欠です。そして、ビジネス分野の知や資金が集まり、革新的な価値が生まれる。それがまさにオープンイノベーションです。先端農業推進プロジェクトにはすでに核になる先生方がいて、あそこに行けば何かイノベーションが起こるのではないかと期待できるようになってきました。
イノベーションセンターは来年夏にオープンします。そのときには、さらに多くの方が集まっていただけると確信しています。先端農業推進プロジェクトは必ず成功させます。