榛葉鉄工所 西山工業

オープンイノベーション静岡、アドバイザーと中堅企業経営者が真剣勝負 新規事業か、本業強化か、見直す絶好の機会に

オープンイノベーションへの取り組み

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「アドバイザーからの助言に基づき、主力事業である二輪車のマフラー事業をより一層強化することにした」(榛葉鉄工所代表取締役社長 榛葉貴博氏)。「会社内では私に意見をしてくれる人はほとんどいない。アドバイザーの助言に耳を傾け、自分が抱えていた迷いを整理できた」(西山工業代表取締役社長 小林公一氏)。これらの発言は、静岡県の中堅企業を支援する産業戦略推進センター「オープンイノベーション静岡」のアドバイザリー・ボードに参加した2人の社長の感想である。

オープンイノベーション静岡は静岡県産業成長戦略の施策の一つで、静岡県の中堅企業が持つ優れた技術や製品を活かし、同県経済を牽引するような中堅企業を集中的に支援する仕組みである。主な支援策は三つある。第一が新たな事業展開に対するアドバイス。第二は産業技術総合研究所およびNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)との共同研究への支援。第三が金融機関との所定金利方式による、中小から大企業まで対象とする新たな融資制度による支援である。

オープンイノベーション静岡の最大の特徴は、支援策の柱の一つであるアドバイザリー・ボードにある。アドバイザリー・ボードは静岡県の有力企業や産業支援機関の代表者など7人で構成され、毎月1回、支援企業に対して経営者の視点から有益なアドバイスを実施している。

アドバイザリー・ボードに参加する候補企業は、民間企業から派遣された職員と県職員が1年間に県内の200社以上の企業を訪問し、ヒアリングを通して企業が抱える経営課題や新規事業の状況等を把握する。そうした情報に基づき新たな事業展開に積極的にチャレンジする意欲のある企業を見出し、アドバイザリー・ボードへの参加となる。冒頭で感想を紹介した2社は、こうしたプロセスを経て参加した企業である。

アドバイザリー・ボードの様子

アドバイザリー・ボードの様子

榛葉鉄工所、主力のマフラー事業強化に大きく舵を切る

榛葉鉄工所(静岡県掛川市)は、高級オートバイのマフラーの開発・製造・販売を行う有力メーカーである。主に川崎重工業やスズキに製品を供給している。同社はオートバイ向け事業を強化するため海外展開を図るとともに、2本目の事業の柱を立ち上げることを目指していた。

榛葉貴博氏

榛葉鉄工所 代表取締役社長
榛葉貴博 氏

2本目の柱として同社が考えていたのが、チタン製マフラー開発・製造で培った技術をベースとした、難加工材であるチタンとマグネシウムの加工用途の開拓である(関連記事)具体的には、ハンドバイクのフレーム、超軽量車いす(共同開発)のフレーム、鉗子等の医療機器向けの用途開拓である。これらに取り組んできたものの、いずれも2本目の柱と言える事業には育っていない。利益を生み出せる状況でもなかった。そこで同社は「2本目の事業の柱をいかにつくるか」をテーマにアドバイザーに意見を求めた。

アドバイザリー・ボードでは、まず参加企業が、沿革やビジョン、財務状況、所有技術や既存製品の特長、相談対象である新規事業の現状などのテーマについて20分程度のプレゼンテーションを行う。その後、アドバイザーとの質疑応答が40分程度行われる。以下がそのやり取りの一端である。

アドバイザー:御社に技術力があることはわかったが、その技術を生かせる市場ニーズがどこにあるのかといったマーケティング戦略、販売戦略が不足している。

榛葉鉄工所:マーケティングは当社の一番弱い部分だ。現在、いろいろな集まりや展示会に出展し、問い合わせが来る環境づくりをしている。

アドバイザー:一本目の柱を最大限に生かし切れているかが疑問だ。タイなど伸びている海外市場をきっちり掴んでいないのはもったいない。

アドバイザー:中型以上のオートバイ市場の規模が全体の25%だとすると、残り75%の小型オートバイ向けをやらないのはなぜか。

榛葉鉄工所:小型オートバイ向けは大量生産品で作り方が違う。海外では低価格競争となり、現地メーカーには太刀打ちできない。タイは現地メーカーが作らない中型オートバイ向けを作っているので利益が出ている。

アドバイザー:海外の市場が拡大しているのなら逃す手はない。今の状況で他の事業に力を入れれば、企業体力が下がって地盤沈下していくだけだ。既存取引の拡充とあわせ海外メーカーも視野に入れるべきだ。

アドバイザー:もう一度マフラー事業、特に海外に力を入れるべきだ。タイのオートバイ市場は成長している。弊社のアジアのオートバイ関連事業の売上は前年の3倍に伸びた。単価は安いが数は多い。国内を整理し、アジアでマーケティング調査を実施してアジア事業を強化すべきだ。

アドバイザー:チタン加工技術を最大限に活用したいという想いは理解できるが、今はオートバイ分野に特化することが必要だ。

アドバイザー:新しいマーケットを切り開いてほしいが、まずは本業に取り組むことが基本である。

アドバイザリー・ボードでのアドバイスを受け、榛葉鉄工所代表取締役社長の榛葉貴博氏は主力のマフラー事業を強化すべく自社の取り組み内容を再検討した。有望市場とされるインドネシアやタイへの訪問調査を実施した。アドバイザーから事業展開の参考にと紹介されたタイの工場も見学した。その結果、既存のタイ工場の強化と、インドネシア等でのビジネス展開の検討を始めている。こうした取り組みにより、当社の技術力を評価する企業からの引き合いが増加している。

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