静岡県の中堅企業桜井製作所は、複雑な形状を持つアルミダイキャスト部品のバリ取りを高速で行う装置を開発した。5軸制御のバリ取り加工機「5軸デバリングセンター」である(図1、図2)。5軸制御を採用することによって自動車のミッションケースのような複雑な形状部品のバリ取りをすべて機械で取り除くことができる。開発した装置の主軸最高回転速度は2万rpm、切削速度は30m/minである。従来のバリ取り機と比較して約2倍高速化できた。その結果、1台の装置で従来機2台分の処理が可能となるため、設置スペースも1/2以下と大幅に削減できる。
人手を介さず短時間で完全にバリを除去
アルミダイキャストでは組み合わされた金型同士の接触ライン(パーティングライン)に沿って、不可避的に突起形状のバリが発生する。金型から取り出された部品は、次の工程でバリを取り除かなければならない。バリの除去では機械加工機や研磨材を吹き付ける砥粒加工機が使われる。この工程で除去できなかったバリは、人が専用工具で一個所ずつ削り取らなければならない。桜井製作所の5軸デバリングセンターを使えば、人手を介さず短時間で完全にバリを除去することが可能である。
同装置の開発は、ある大手自動車メーカーの技術者からの依頼がキッカケだった。その技術者は元々部品加工部署の技術者であり、ダイキャスト部品の製造ラインに配属されたばかりだった。従来機と人手で処理していたバリ取り工程を見て、その技術者は時間がかかっていることを疑問視していた。加工技術ならもっと短時間で処理できるはずだとの思いがあった。ある時、その技術者から桜井製作所に加工技術を使ってバリ取りの時間を短縮できないかという相談が持ちかけられた。2012年のことである。
依頼を受けた桜井製作所は、まずマシニングセンターを使ってアルミダイキャストのバリ取りを試みた。ところが、「刃は折れる。上手くバリを取り除けない。これは一筋縄ではいかないというのが第一印象だった」と、開発責任者の桜井製作所取締役の市川彰氏は当時を振り返る。その日から、5軸デバリングセンターの開発に向けた試行錯誤の日々が始まった。
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図1●5軸制御のデバリングセンター外観
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図2●5軸制御のデバリングセンターの加工室の切削工具(中央)とワークを取り付ける冶具(左)
高速化の成功要因は、刃物形状の工夫とバリ取りに特化した主軸やコラムの最適剛性化
切削工具の高速回転に成功した要因の一つは、刃物メーカーと共同で切削工具の刃の形状を工夫したことにある。工業用ダイヤモンドの切削チップを特殊なボールエンド形状に配置。この構造の切削工具の開発によってバリを高速で安定的に切削できるようになった。
切削速度を高速化する工夫も行った。通常の5軸制御のマシニングセンターでは、幅広い客層の要求に合わせ、重切削から仕上げ切削まで、アルミ材からスティール材等の加工に合わせた高剛性な重量設備となっている。高速切削には限界があり、切削軌跡が制御に追随できなくなる。例えば真円を高速切削しようとすると、加工結果は真円からズレが生じる。軽量化と剛性と高速切削の最適化を求めて試行錯誤した結果、辿り着いたのが従来のバリ取り機と5軸制御マシニングセンターの丁度中間の位置づけの装置だった。
こうした工夫の結果、市販の標準的マシニングセンターの性能を上回ることができた。標準的マシニングセンターは主軸回転速度が1万rpm、切削速度が20m/minだが、開発した装置では主軸回転速度2万rpm、切削速度30m/minと高速化できた(動画)。「マシニングセンターはいろいろな材料を加工しなければならない。このため高い剛性が求められる。開発した装置はバリ取りに特化した加工機だ。高速性を重視し、高速なバリ取りに最適な剛性を持たせて軽量化を図ったことが開発の成功に結び付いた」(市川氏)。
動画●5軸制御のデバリングセンターのデモ
強みはクライアントの課題を一緒になって解決すること
「最初に開発した装置はすでに10台程度販売している。5軸制御ということもあり、マシニングセンター並みの価格になってしまった。現在販路拡大に向け、バリ取り機とマシニングセンターの中間価格帯の装置を開発中である」と、桜井製作所代表取締役社長の櫻井成二氏は語る。低価格化のポイントは、バリ取り以外の加工のために設けた6種類の切削工具を格納するマガジンを省き、バリ取り以外の機能をオプションとすることである。
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桜井製作所取締役の市川彰氏
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桜井製作所代表取締役社長の櫻井成二氏
桜井製作所は従業員数190人の専用工作機械と部品加工のメーカーである。「大手工作機械メーカーと差異化するため、顧客の要望に合わせた治具の開発から装置のセッティングまで一貫したサービスを提供する。クライアントの課題を一緒になって解決し、商品化していく。そこが弊社の強みである」と櫻井氏は強調する。5軸デバリングセンターの開発は、まさに同社の強みが発揮された事例と言えよう。同氏はこうしたサービスも含め、今後5軸デバリングセンターが事業の柱の一つに育つことを期待する。