静岡県が医療機器開発にブレークスルーを起こすオープンイノベーション拠点として建設を進める医療健康産業研究開発センターが今秋本格稼動する。静岡がんセンターの隣という立地を生かし、医療現場ニーズを迅速に吸い上げ、医療機器メーカーや県内中小企業が連携して商品化を推進する構想を描く。静岡県は、医療機器を中心に、県内のライフサイエンス関連のものづくり産業を2兆円に伸長させる目標を掲げる。
5月24日には、県の産業戦略や中小企業を支援する組織「オープンイノベーション静岡」のアドバイザリー・ボードによる視察が行われた。ボードメンバーである静岡県経営者協会会長の岩崎清悟氏は「医療機器産業は、法規制が厳しく、製品化には長い時間とノウハウが必要になる。医療健康産業研究開発センターを拠点に、開発の入口となる臨床ニーズとのマッチングや、製品化の出口となる規制対応・品質管理、マーケティングなどに対する支援体制をプラットフォーム化し、充実させることが産業振興の加速につながる。実績のある企業の進出に加え、研究者と技術者を有機的に連携させるコーディネーターの役割も重要になるだろう」と指摘する。
医療健康産業研究開発センターをブレークスルーの拠点に
静岡県は、製薬メーカーや医療機器メーカーの工場や研究施設が多く集まっている。静岡がんセンターを中心に、県内の研究機関や大学、中小企業との連携を促進することで医療産業の振興を目指す「ファルマバレープロジェクト」(正式名:富士山麓先端医療産業集積構想)を2001年から進めており、国内有数のクラスターとして発展してきた。2014年の医薬品・医療機器の県内生産金額は8700億円。この10年で2.7倍に拡大し、5年連続で全国1位を達成する(図1)など、着々と実績を積み上げている。
さらなる成長に向け、県の関係者は、医療健康産業研究開発センターを中核としたオープンイノベーションの促進に期待を寄せる。「医薬品、医療機器に化粧品を加えると、県内のライフサイエンス関連の生産額は1兆円を超えている。2015年にまとめたファルマバレープロジェクトの第3次戦略計画では2兆円を目標に掲げている。医師や研究者、大企業、中小企業が連携しものづくり産業の付加価値を高めていくためには、オープンイノベーションを通じたブレークスルーが必要になる。その拠点として医療健康産業研究開発センターを位置付けていく」と静岡県理事(産業戦略担当兼新産業集積担当) 渡辺吉章氏は語る。
図1●静岡県の医薬品・医療機器の生産金額は5年連続で全国1位
(出所:静岡県経済産業部)
テルモが技術だけでなく、規格の実践的な運用ノウハウを提供
ブレークスルーを牽引する企業の進出も進んでいる。同センターは、「①リーディングパートナーゾーン」「②地域企業開発生産ゾーン」「③プロジェクト支援・研究ゾーン」の3区画で構成される(図2)。
中小企業との技術連携やノウハウ共有を主導するリーディングパートナー企業としてリーディングパートナーゾーンに入居するのがテルモだ。静岡県富士宮市の愛鷹工場内にある同社のME(Medical Electronics)センターを移転し、電子技術やソフトウェアを活用した医療機器の開発と生産を行う。入居後は、地域の中小企業に対し、技術だけでなく、医薬品医療機器法(薬機法)の最新情報や「QMS(Quality Management System)」「ISO13485」といった医療関連規格の実践的な運用ノウハウなどを提供する。また共同開発テーマに関しては、同社の研究施設や総合医療トレーニング施設(神奈川県足柄上郡)を活用することも可能という。
「ものを作る過程では、技術だけでなく、試作品の的確な評価や規制・規格への適合が必要になる。我が社は、カテーテルや人工心肺装置、輸液ポンプ、採血システムなど様々な医療機器を開発し、世界各国で事業を展開している。ものづくりに加え、国別の規格への対応や販路開拓など、医療機器を開発・販売する際に必要なノウハウの獲得を支援することで地域の産業振興に貢献していく」とテルモMEセンター副センター長 佐野弘明氏は展望する。
図2●医療健康産業研究開発センターの外観と構成