飲酒運転による事故は2000年をピークに減少しているものの、警視庁によると年間4155件(2014年)も発生している(図1)。飲酒運転に対する社会の目は厳しさを増している。刑法・道路交通法の改正や厳罰化も進んでいる。しかし、依然として飲酒運転事故は後を絶たない。こうした中で運輸・旅客業の飲酒運転防止に大きな貢献をしている企業がある。静岡県の中堅企業東海電子である。同社は、運輸・旅客業者が実施している運転前の点呼時に飲酒検査を行うシステムを開発し、運輸・旅客業者におけるアルコール検査が義務化される前から同システムの普及に取り組んできた。現在も飲酒運転の撲滅に取り組む東海電子代表取締役杉本一成氏(写真)に、アルコール測定システムの開発経緯や今後の展開について伺った。
東海電子は長い間、時計製造の下請けを続けてきた。ところが「その時々の急激な円高や景気変動によって生産数量が大きく左右され、そのたびに会社存続の危機に直面した」(東海電子代表取締役杉本一成氏)。下請けを続ける限り、こうした状況は変わらない。そこで杉本氏は下請けからの脱却を目指して自社製品を持つことを決断し、ハードやソフトの技術者を集めて社内に開発部門を設置した。
図1●原付以上第1当事者の飲酒運転の交通事故件数の推移
(出所:警視庁)
開発のキッカケは悲惨な飲酒運転事故
写真●
東海電子代表取締役の杉本一成氏
(テクノアソシエーツ撮影)
開発部門を設置し1~2年が経ったころ、同社のアルコール測定システムの開発につながる事故が発生する。東名高速道路東京インターチェンジ付近で渋滞により停止していた乗用車に飲酒運転の大型トラックが追突するという事故である。追突の衝撃で乗用車は炎上、後部座席に乗っていた幼い子供二人が車から脱出できた両親の目の前で焼死するという極めて悲惨な事故だった。1999年11月28日のことである。当時テレビ局が、この悲惨な事故を連日報道した。
飲酒運転事故を起こしたドライバは、当然、法律で裁かれる。しかし、事故を起こした車は企業のものだ。事故を起こした運輸・旅客業者の責任はどうなるのか。杉本氏は、運輸・旅客業者にとって飲酒したドライバに運転させない仕組みが必要だと考えた。
その当時、アルコールを正確に検知するには大型のガス測定装置が必要だった。その測定装置は大きさ、価格の点で運輸・旅客業者が導入できるものではなかった。杉本氏は小型機器でアルコールを検知できないものかと考えた。それを開発陣に伝えたところ、開発陣は2カ月ぐらいで小型のアルコール測定器を開発した。当時、韓国製の簡易型アルコール測定器はあったが、杉本氏がそれを知ったのは機器が開発された後だった。もし先に知っていれば開発陣に相談することはなかったろうと杉本氏は振り返る。
最初のアルコール測定器の開発後1年半をかけ、飲酒の測定結果と同時に、不正防止用に測定中の顔写真を撮影できる業務用アルコール測定システムを完成させた(図2)。そのシステムの発売に漕ぎつけたのは2003年8月23日のことである。
アルコール測定システム発売の1週間前に高速バスの飲酒運転による当逃げ事件が起きていた。御殿場で事故を起こした高速バスがそのまま浜松まで走行し、運転手が逮捕された事件である。このときもテレビのワイドショーが連日事件を報道した。そうした中で業務用アルコール測定システムの発売を発表したため、日本経済新聞が紙面で大きく取り上げた。その反響は極めて大きかった。
図2●アルコール測定システム「ALC-PROⅡ」と記録画面
(出所:東海電子HP)