静岡県は平成27年11月に静岡県IoT活用研究会を設立し、県内の中小企業を対象にIoTの啓発と導入支援活動を実施している。この3月13日には「平成29年度静岡県IoT活用研究会総会」(図1)を開催し、セミナーや分科会、実証実験等の活動を報告した。
IoTとはInternet of Thingsの略で、モノのインターネットと言われている。センサーやアクチュエーター、電子機器がインターネットを介してサーバーやクラウドに接続され、設備機械の稼働状況等の情報が収集される。その目的は生産現場の課題を洗い出し、生産性の向上や物流の効率化、故障予知・設備保全に結びつけることにある。
図1●平成29年度静岡県IoT活用研究会総会
啓発活動とIoT導入支援が二つの柱
「3年前、世界の製造業のルールをガラリと変える技術とも言われるIoTによる革新の波が来ていることが報道され始めていた。しかし当時、県内の中小企業の多くは、「IoTとは一体何なのか?」「具体的に何をすればよいのか分からない」という声がほとんどであり、大きな期待感とともに、取り残されるのではないかという不安感が広がりつつありました」と、静岡県経済産業部商工業局経営支援課の課長代理勝又健次氏は語る。同課は、中小企業の経営力向上や新しい取組を支援する役割を担う。静岡県は当時、IoTの波が中央から地方へ、大手企業から中小企業へ押し寄せると考えていた。そこで静岡県がイニシアティブを取り、静岡県IoT活用研究会を発足させた。事務局として静岡県産業振興財団と静岡大学、浜松地域イノベーション推進機構にも協力を仰いだ。
静岡県IoT活用研究会の活動の大きな柱は二つある。一つはIoTとは何かを理解するための啓発、もう一つはIoT導入を支援するための分科会である。同研究会は啓発活動として、まず講演会を開催した。最初の講演会には、インダストリー4.0を掲げてIoTで先行していたドイツの取組や、経済産業省、国内大手企業の取組を紹介した。その後も同研究会は、セミナー活動を通して中小企業にIoTの最新情報を提供し続けている。
IoT導入のための分科会では同じ立場、同じ課題を持つ地域企業を集め、複数の班に分けて具体的な課題の解決策を検討した。分科会を通して、国内でIoTの普及活動を展開しているIVI(Industrial Value Chain Initiative)と協業することもできた。IVIはすでに、企業がIoT導入に必要なスキルを身に着けるための講座を開設していた。平成28年度からその取組を、地方でしかも中小企業を対象に展開しようとしていた。IVIは静岡で、地方初のIoT実践セミナーを平成28年8月に開催した。
同セミナーは座学だけに留まらず、実証実験という位置づけで中小企業のIoT導入を支援した。例えば、セミナーに参加した1社が2000種類あるドリルの在庫管理にIoTを活用した。勝又氏は「さほど費用をかけなくても成果を上げられることを示し、多くの中小企業にIoTを活用していただきたい」と研究会活動の狙いを語る。
研修会で議論された課題解決策は平成30年度に実証実験へ
写真●静岡県IoT活用研究会の事務局を務める静岡県産業振興財団革新支援グループ
グループマネージャー兼革新企業支援チームリーダーの長井善郎氏
3月13日に開催された静岡県IoT活用研究会の総会では、平成29年度の活動報告が行われた。最初に同研究会会長である静岡大学顧問・名誉教授の伊東幸宏氏が挨拶し、それに続き2件の発表があった。伊東氏は、人口が減少する日本において生産力を維持するためには、女性や外国人、ロボット等の活用が考えられるとしたうえで、IoTの活用もそうした手法の一つであると説明した。
続いて登壇したのが、静岡県IoT活用研究会の事務局を務める静岡県産業振興財団革新支援グループ グループマネージャー兼革新企業支援チームリーダーの長井善郎氏(写真)である。同氏は平成29年度の研究会の活動と平成30年度の事業計画を説明した。
現在、静岡県IoT活用研究会には232社・団体(3月13日時点)が加入している。長井氏は、講演会やビジネスマッチング会、IoT導入に向けた実践セミナー、実証実験、企業間データ(EDI:Electronic Data Interchange)連携等の活動結果を報告した。例えば実践セミナーは、IVIの協力の下、平成29年9月8日と9日に実施された(図2)。16社から21人が参加した。参加者は4班に分かれて設定されたテーマごとに課題の解決策を議論した。第1班のテーマは「在庫を正確に知りたい」、第2班が「生産計画について」、第3班が「①正確な在庫管理による正確な生産指示、②検査機器の故障予知保全」、第4班が「工程の進捗状況を知りたい」である。いずれのテーマも多くの企業が日々、生産現場で直面する切実な課題である。
実践セミナーで議論された解決策の一部は、平成30年度の実証実験に取り上げられる。そのうちの一つがハーネス検査機器の故障予知保全である。リードスイッチや加速度センサーを活用し、無線ネットワークを介して検査機器の使用回数をリアルタイムで収集する。それによって故障予知の見える化を実現し、作業や検査機器管理の効率化を図る。もう一つは加工工程の進捗状況の見える化である。工場内の三つの設備の稼働状況をセンサーや小型コンピュータ「Raspberry Pi」を使ってリアルタイムで収集する。
このほか、企業間データ連携分科会ではネットワーク経由で、複数の企業間で注文書・請求書等を交換する仕組み作りが検討されている。同分科会の活動は、中小企業庁の委託でITコーディネータ協会が公募した「次世代企業間データ連携調査事業」に採択された全国12の実証プロジェクトの一つである。矢崎部品が中心となり参加企業間で、ネットワークを介して受発注業務や見積依頼を行う。受発注業務の効率化に加え、シミュレーション機能を活用して納期・費用の見積もり等の効率化も図るとしている。
図2●IoT実践セミナーの様子