このように事業経営のIT化や近代化を積極的に推し進める同社だが、機械化やデジタル化、自動化を進めるうえでの懸念は、これまでに同社が培ってきた技術力が廃れる可能性という。このような考えから同社では、人手による工程もあえて残すようにしている。
芹澤取締役は、「量産品は、自動化した機械でやれば良い。しかし、一品ものでは熟練した技術者の『職人芸』が優るところも多い。CAD/CAM活用においても同様で、プログラム作成と機械オペレーターとを分業すれば、より効率は上がるかもしれないが、それをやってしまったら会社全体の技術が下がってしまう。あくまでも機械オペレーターがプログラム作成を行うというスタンスは維持していきたい。AI(人工知能)に学習させれば難しい加工もある程度できるだろうが、今後は人手でしかできないことが重宝されるのではないか」と説明する。
ソフトウエアの自社開発やグローバル展開も視野に
同社は芹澤取締役による主導の下、基幹系ITシステム導入やISO9001認証取得による品質管理など、社内を中心に経営体制の整備や強化に取り組んできた(図2)。今後のビジョンとして同社は、産業機械のハードウエアだけでなくソフトウエアも自社で開発したいという。「当社の特徴はワンストップの一貫生産で、オーダーメードの産業機械がウリ。省力化が進む中でハードだけでなくソフトの面でもお客様の問題や困りごとを解決できるような体制を構築しており、今後は様々な企業との連携に取組みながら、最終的には、社内の内製化を進めていきたい。」(芹澤取締役)。
図2●ISO9001やISO14001で認証を取得している芹澤工業の事業所
ちなみに現在、構想段階ではあるが、水揚げした魚を加工するラインを自動化ができないかという相談を焼津の漁業関係者から受けているという。どうしても人手が必要な工程だが、現在その工程は人手不足で海外の技術実習生に頼るしかない状況である。実習生の雇い入れには煩雑な手続きや受入可能枠などの問題があり、必要な人員を満たす事が困難なため、設備のシステム設計・開発を行っている協力会社と構想を立て始めているという。
熟練技術者による「匠」のワザ伝承に加え最新のIT技術の導入と、新旧の良いとこ取りを実践している芹澤工業。芹澤取締役が同社の経営を引き継いでいるとみられる数年後には、様々な企業とのイノベーションが起きていることが期待できそうだ。