産業機械の老舗・芹澤工業(静岡県駿東郡長泉町)がものづくりや経営のIT(情報技術)化や近代化に取り組み、効果を上げている。
同社は1950年の創業以来、総合機械大手の東芝機械を主要な得意先として、様々な産業機械を多品種少量ベースで受注生産している。現在主力となっているのは、プラスチック成型関連の分野である。具体的には、電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池に使用されるセパレーター製造関連の機械を生産している。その他にも多種多様な産業機械を手がけており、自動車部品の焼入焼戻装置、自動車の各種試験機、ラミネート圧着装置や非破壊検査装置などを製造した実績がある。
同社の強みは、産業機械の設計、機械加工、組立の3工程からなる一貫生産である。顧客からの大まかな仕様を基に、同社が具体的な機構設計を手がける。機械加工では鉄やステンレス、アルミなど多岐にわたる金属材料を取扱っており、熱処理や表面処理、難易度の高い部品の加工にも対応する。
最後の組立工程では、高精度の機械の場合、芯出し作業で1000分の1ミリ単位の精度が必要とされる。設計図面通りに製作された部品でも、機械化が困難でわずかな歪みさえ許されない微調整では、熟練した技術者による手作業が決め手となることも多いという。一方で日々進むデジタル化・IT化の影響は、産業機械の製造現場にも及んでいる。従来は3カ月だった納期が、現在では1~1.5カ月まで削減されるケースが多くなり、顧客からの短納期化の要求はますます厳しくなってきている。
芹澤工業の芹澤菜緒子取締役
「多品種少量生産なので、効率の改善には限界がある。単純に生産能力を上げるという目的であれば、取引外注先を開拓することは簡単。勤務形態を2交代制へシフトすることも労務管理の課題さえ解決すればなんとかなる。ただ、社内の生産効率自体の改善には繋がらない。様々な工作機械を設備しているため、CAD/CAM*1の導入にも二の足を踏んでいる。作業によっては、CAD/CAMを使わないほうが早いケースもある。とはいえ、加工するワークに併せてCAD/CAMを上手く使えば、効率アップに効果的なのは確かなので、当社も現在注力している」と同社で取締役を務める芹澤菜緒子氏は説明する(図1)。
*1 Computer-Aided Design / Computer-Aided Manufacturing
熟練技術者の「職人芸」を活かすIT導入
製造工程におけるCAD/CAMの有効活用は道半ばだが、同社では基幹系ITシステムの導入で業務処理の大幅な効率改善を実現した実績がある。これにより、従来は表計算ソフトでバラバラに管理していた製造現場や経営に関する情報の一括管理が可能となった。 「現場の見える化や進捗管理、収支状況の把握などが劇的に改善した。事務員の残業も激減し、『働き方改革』につながった」(芹澤取締役)という。同社ではITシステム導入にあたって政府の「ものづくり補助金」を活用する一方、自社でも相当額を投資したが、「費用対効果が極めて大きかった」(同)と評価している。
ITの導入に関しては、ホームページやブログによる情報発信に注力していることも同社の業績拡大に繋がりつつある(図1)。従来は芹澤取締役の父である芹澤良一社長の人脈を中心に顧客を獲得していたが、ホームページをリニューアルしてから大口の新規案件をウェブ経由で開拓できたという。「実は、私は入社するまで、父の会社の技術力や業務内容について全く知らなかった。技術は優れているのに、これまでそれを社外に発信する事をしてこなかったから。ホームページや雑誌等のメディアで会社をPRすることで、これまで社長の人脈内でやっていた世界が、外に大きく広がった」(芹澤取締役)。
図1●芹澤工業のホームページ。
大口案件の獲得にも貢献している
社員や技術者の採用では、ブログも役に立っている。「以前は、生活するために仕事を探して応募してきた人が大半。現在は『ものづくりが好きだから携わってみたい』といった人も来るようになった。応募してくる人の傾向が変わってきている」(同)。今後、見込み顧客や社員の候補者にさらに幅広くアプローチするうえで、ホームページやブログが大きな武器となることは間違いない。芹澤取締役は、「リチウムイオン電池が全固体電池に移行するとセパレーターが不要となるため、今から手を打っている」という。