サツマ電機

産業用ブレーキ調整講習会を無料で開催 未然に火災等の危険から工場を守る

企業紹介

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産業用大型モータのブレーキを製造・販売するサツマ電機(静岡県沼津市)は、「産業用ブレーキ調整講習会」の開催というユニークな取り組みを実施している(図1)。同社は製鉄所の高炉ラインの工場用クレーン、河川の水門などに取り付けられる大型ブレーキを製造・販売する専業メーカーである。「産業用大型ブレーキは調整を間違えると、煙が出る恐れがある。最悪の場合、火災につながる」と、サツマ電機代表取締役社長梶川久美子氏(写真)は説明する。最近、工場火災がニュースとして取り上げられ、燃え上がる炎がテレビ画面に映し出されることが多い。同社は無料で講習会を開催し、自社の製品が調整不良によって火災の原因になることを未然に防いでいる。

図1●産業用ブレーキ調整講習会の様子

図1●産業用ブレーキ調整講習会の様子

講習会を開催するキッカケは、ある企業から産業用ブレーキの寿命判断基準の問い合わせがあったことだった。2015年の夏のことである。クレーン装置のオペレータがチェックできれば問題はないが、オペレータはクレーン装置を操作するだけでこまめな点検の時間は少ない。装置に不具合が生じて初めて保全担当者が呼び出される。世の中にある工業製品全体の品質が昔より向上し便利になったこともあって、未然に危険を予知するレベルは昔より明らかに落ちている。また製造現場では派遣社員や請負社員を活用するようになり、技術がうまく継承できていないことも多い。「我々もそこに危機感を持っている」とサツマ電機代表取締役会長の梶川弘一氏(写真)は打ち明ける。

実習付きの講習会でブレーキの構造・動作、ライニングの調整方法を学習

産業用ブレーキ調整講習会は半日のカリキュラムである。講習会は11時半に三島駅へ集合するところから始まる。昼食後、沼津港にある大型展望水門「びゅうお」を見学する。駆動部はガラス張りで中が見え、ブレーキを見ることができる。参加者は見学後、サツマ電機へ移動し、座学と実技が行われる。まずブレーキの基本的な構造と動作が解説され、次にブレーキの調整方法が説明される。その後、ブレーキ調整の実習が行われる。

写真●サツマ電機代表取締役会長の梶川弘一氏(左)、同社代表取締役社長梶川久美子氏(右)

写真●サツマ電機代表取締役会長の梶川弘一氏(左)、
同社代表取締役社長梶川久美子氏(右)

ブレーキ調整のポイントは、回転するドラムやディスクを摩擦で押さえるライニングと、そのドラムやディスクとの隙間をいかに最適に保つかにある。回転中に両者が接触していると余計な熱が発生する。また長期間使用し続けるとライニングは摩耗し、ブレーキは調整が必要になる。再調整の期間は、使用環境や使用頻度によって大きく異なる。取扱説明書にはこうした環境条件や使用条件に応じたすべての調整方法を書き込むことは難しい。ストロークインジケータにより調整するが、講習会ではさらにユーザーの使用状況を聞きながら、なるべくシンプルに調整する方法を説明する。「製品が完全であっても、それを使う人に正しい知識がなければ事故が発生する恐れは残る。講習会に参加し、正しい知識を身に着け、安全に長く使っていただきたい。講習会を無償で実施しているが、それは我々の身を守ることにもつながる」と梶川久美子氏は語る。

産業用ブレーキ調整講習会は現在も進化を続けている。サツマ電機は講習会専用のブレーキも開発した。講習会開催のキッカケを作った企業は講習会専用ブレーキを購入し、サツマ電機は半期に一度同社に出向いて講習会を開催している。

サツマ電機製ブレーキ、エアダンパーの採用によって衝撃の少ない電磁ブレーキを実現

サツマ電機には大きく分けて2種類の製品がある。ドラム形ブレーキとディスク形ブレーキである(図2)。前者には電磁ブレーキとミューリフタ(電動油圧押上機の商品名)ブレーキがあり、後者には電磁ブレーキとシンプルな構造で小型軽量のパッド形ディスクブレーキがある。サツマ電機のブレーキの最大の特徴は電磁ブレーキにエアダンパーを採用していることである。

電磁ブレーキは電磁石と制動バネによって動作する。電磁石を励磁させることにより発生する磁力によって吸引板(ディスク)を吸引、励磁電源を切ることによって制動バネの力で吸引板を電磁石から離反させる。無励磁作動型の場合、吸引板が電磁石に吸引された状態がブレーキの開放状態となり、離反した状態がブレーキの制動状態となる。

図2●ドラム形ブレーキ「BRS5形交流操作直流電機ブレーキ」(左)とディスク形ブレーキ「BRP2形交流操作直流電磁ブレーキ」(右)

図2●ドラム形ブレーキ「BRS5形交流操作直流電機ブレーキ」(左)と
ディスク形ブレーキ「BRP2形交流操作直流電磁ブレーキ」(右)

電磁ブレーキのエアダンパーは、吸引板の外周にウエアリング(しゅう動材)を取付けて電磁石と吸引板(ディスク)の間のギャップ部をふさぎ、ギャップ部の空気をダンパとして利用する(図3)。エアダンパーがない状態では、吸引板の吸引・離反時に大きな衝撃が発生し、その衝撃がブレーキや電動機などに伝わる。エアダンパーを設けることにより吸引板の吸引・離反時に発生する衝撃を緩和することができる。

図3●エアダンパーの構造

図3●エアダンパーの構造

エアダンパーを設けたことにより、サツマ電機の電磁ブレーキは制動時にブレーキにかかる衝撃を1/4程度に低減している。一方制動し始めに電動機にかかるピークトルク(定常トルクの3倍程度)は発生しない(図4)。その結果、低騒音を実現している。

図4●制動し始めに電動機にかかるピークトルク(定常トルクの3倍程度)は発生しない

図4●制動し始めに電動機にかかるピークトルク(定常トルクの3倍程度)は発生しない

製品とサービスを一体として提供できる体制構築へ

もともとサツマ電機は明電舎100%のOEMだった。明電舎がクレーン用モータから撤退するのに伴い、明電舎以外のメーカーの製品や自社ブランド品を製造するようになった。「昔は信頼性の高い製品を作ることで、われわれの役割は終わっていた。独自ブランドを製造・販売するようになったが、それだけではメーカーとして独り立ちは難しい。納品後のアフターサービスを充実させることが不可欠だ。現在、営業も含め、製品とサービスを一体として提供できる体制を構築しようとしている」(梶川久美子氏)。

サツマ電機は消耗品の部品販売も行っているが、現在、年6回程度開催している産業用ブレーキ調整講習会はユーザーにとって極めて有益なアフターサービスとなるだろう。ちなみに、同講習会にはサツマ電機ブランドの認知度向上のため、同社の顧客以外も無料で参加できる。

産業用ブレーキ調整講習会のご案内(定期開催分)

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