サカイ産業

サカイ産業、東邦大、静岡文化芸術大が共同で教育教材用心臓マッサージ実習キットを開発

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心臓が止まった人を見つけたら、真っ先に思いつくのが心臓マッサージである。両手を胸の中心に当て、胸骨の上から心臓を力強く圧迫する。イメージはわかっていても、実際に訓練を受けた人は少ないのではないだろうか。いざというとき適切に心臓マッサージを行えるか不安が残る。そんな課題を解決する練習器具が登場した。サカイ産業(静岡県島田市)と東邦大学医学部、静岡文化芸術大学デザイン学部が共同で開発した教育教材用心臓マッサージ実習キット「Dock-kun(ドックン)」である(図1図2)(説明動画説明動画)。

ドックンは、透明な浮き輪状のバルーンが二つ重なった中心に、心臓に相当するエアーポンプと、ピストン状のスプリング付きポンプカバーが配置されている。エアーポンプからは動脈、静脈に相当する2本のホースが出ており、ホースは一方が空のバケツに、もう一方が水の入ったバケツにクリップで固定される。エアーポンプを圧迫すると、水の入ったバケツから空のバケツに水が流れる。このようにドックンは心臓マッサージの際の血液の流れまで再現できる優れものである。しかも価格が7000円(税抜)と極めて安い。

図1●教育教材用心臓マッサージ実習キット「Dock-kun(ドックン)」 図1●教育教材用心臓マッサージ実習キット「Dock-kun(ドックン)」

図1●教育教材用心臓マッサージ実習キット「Dock-kun(ドックン)」
実演者はサカイ産業繊維事業部2課技術Gの豊嶋恭衣氏
(※画像をクリックすると説明動画をご覧いただけます)

図2●ドックンのキット構成

図2●ドックンのキット構成

開発元のサカイ産業は静岡県の中堅企業で、ガラス繊維やアラミド繊維、炭素繊維などの産業用繊維資材を織物・編物・紐にし、それらを成形加工する企業である。創業は100年前で、同社は今年10月に100周年を迎える。創業当初は綿を使った製紐、例えば帯留め用の紐や靴紐等を製造し、徐々に産業用細幅綿織物に移行した。その後ガラス繊維織物の開発を行い、発電機等の絶縁被覆材を提供してきた。ガラス繊維の織物技術が東レから認められ、1977年に東レと日精、サカイ産業合弁のサカイ・コンポジットを設立し、炭素繊維の織物、成形加工へ進出した。

社会的貢献という意味で開発、ドックンは心臓、肺の役割を忠実に再現

サカイ産業は高機能繊維の織物、編物分野では高いシェアを持つものの、主としてOEMメーカーであるため一般的な知名度はさほど高くない。そこで同社は、知名度や従業員のモチベーションを高めるため、2014年に自社の技術を水平展開し、独自ブランドの製品を開発する新市場開拓室を設けた。そこでは、炭素繊維を使ったゴルフバックやボストンバックが開発された。今回の心臓マッサージ実習キット・ドックンも、こうした流れの中の製品である。

ドックンを開発するキッカケは、サカイ産業が顧問として招聘した産学共同システム研究所代表取締役の白井達郎氏から東邦大学医学部教授杉山篤氏を紹介されたことである。杉山教授は、多くの人が使える安価な教育教材用心臓マッサージ実習キットを開発しようとしていたが、なかなかうまくいかずパートナーを探していた。そんなときに白井氏が杉山教授にサカイ産業を紹介した。

杉山教授が教育教材用心臓マッサージ実習キットのイメージとしてサカイ産業に提示したのが、食品保存用に使用されるタッパーと樹脂製灯油ポンプからなる試作品だった。灯油ポンプは心臓の機能を備えており、押したときの胸骨の硬さをタッパーで表現しようとしたものだった。「必ずしもサカイ産業の技術が生かせる商品ではなかったが、社会的貢献という意味で、社長が教育教材用心臓マッサージ実習キットの開発に協力すると決断した」と、ドックンの開発を担当したサカイ産業新市場開拓室執行役員中川裕孝氏(写真)は語る。

サカイ産業はOEM主体で、顧客の設計・指定するものを製造するため、心臓マッサージ教材のデザインを決定できるデザイナーはいなかった。そこで中小企業を支援する静岡県産業振興財団に相談、静岡文化芸術大学デザイン学部教授の伊豆裕一氏(現デザイン学部長)を紹介された。伊豆教授がデザイン学部の学生・鈴木美香氏(2017年生産造形学科卒業)を開発に参加させ、ドックンのデザインを担当させた。ちなみにドックンという名称も鈴木氏が命名した。

「正しい心臓蘇生の方法を普及させ、これまで助けることができなかった命を一つでも救いたい」という杉山教授のポリシーに基づき、開発は進められた。「米国の心臓蘇生では5~6cmの圧迫が基準である」「圧迫したときの人の背骨の硬さや胸部の柔らかさを表現したい」「1分間に100~120回押さなければならない。その間に血液が約2L流れるようにしたい」。サカイ産業は、こうした杉山教授の要望に忠実に応えていった。

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5~6cmの圧迫と胸骨の反発力を表現するため、エアーポンプを圧迫するピストン状のポンプカバーにスプリングを設けた。背骨の硬さは硬めのウレタンクッションを、胸の柔らかい感触はスポンジ状のウレタンクッションを使った。心臓はゴムボートに空気を入れるエアーステップポンプを活用した。そのエアーポンプに、空気の代わりに水を通すことによって血液の流れを表現した。

さらに拘ったのは気道の確保である。心臓マッサージは、心臓を潰して血液を脳に送り込むが、同時に肺も潰して血液に新鮮な酸素も供給する。酸素が供給された血液を送らなければ脳は死んでしまう。血液に酸素を供給する呼気と吸気を表現するため、ポンプの回りにバルブ付の浮き輪状バルーンを配した。バルーンにバルブを設けたことによって肺の呼気音と吸気音も再現した。

サカイ産業(株) 「ドックン」製品説明資料

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