産業戦略推進センター「オープンイノベーション静岡」では、大手企業などが自社だけでは解決できず抱えている技術課題に対して、静岡県内の優れた技術を持つ企業を紹介し、両者のマッチング機会を提供するなど、県内企業の技術や強みを活かした業績拡大を支援している(関連記事)。
平成30年から本格的に取り組んだ結果、様々な知見やノウハウが蓄積されるとともに、大手企業と県内企業との間のマッチングで実績も出始めた。このような現状や課題、今後の展望について静岡県経済産業部産業政策課の田中賢太郎主査に伺った。
(聞き手:テクノアソシエーツ 宮崎信行、大場淳一)
オープンイノベーション静岡における、これまでの経緯をまずお聞かせ下さい。
近年、首都圏を中心にオープンイノベーションを推進している企業が増え、そのような企業と県内企業の橋渡しをすることで、優れた技術を活かした販路拡大を支援したいと考えており、平成30年4月からマッチングの取り組みを開始しています(図1)。
図1●オープンイノベーション静岡のマッチングの仕組み(出所:静岡県)
まず、大手企業等が外部に求めているニーズを集めなければ、そもそもマッチングができません。そこで、ニーズ収集から検討を始めて当初は県内の研究所や研究開発(R&D)拠点をリストアップして訪問しましたが、自社の開発状況などを外部に開示することに難色を示されました。そこで結果的に、東京や大阪で積極的に外部の技術を取り入れている企業に当たることになりました。
東京や大阪の企業へのアプローチは、どのように実現したのでしょうか。
いろいろ調べていくうちに、経済産業省関東経済産業局がオープンイノベーションを推進する企業を支援するため、新しい交流の機会や実践の機会を提供していることが分かりました。具体的には大手企業を中心に外部連携意欲の高い企業が自社のオープンイノベーション戦略や求めるパートナー像、具体的な技術ニーズを情報発信する場(オープンイノベーション・チャレンジピッチ)が設けられており、この会に参加することによって、かなりの難所だったニーズの収集が実現しました。(関東経済産業局によるオープンイノベーション促進に係る取り組み)
マッチングに関しては、これまでにどのような成果があがっていますか?
平成30年度に集まった大手企業等が求めるニーズは17社、200件以上あり、シーズに関しては事務局として訪問した県内企業がこれまでで約600社に上っています。その他にも県内外の展示会や商談会に出向き、出展している県内企業との面談といったことも行っています。
このようなニーズやシーズを基に、平成30年度で大手の重工メーカーや空調メーカー、素材メーカーと県内企業との面談に至ったという実績が出てきました。
地道な努力の積み重ねがマッチングの成果に結びついている訳ですね。では、このような取り組みと実績の一方で、どういった課題がありますか?
オープンイノベーション静岡で企業間マッチングを担当する田中主査
オープンイノベーションに積極的な企業でもその度合いや難易度も様々です。大手企業から、この技術で困っている、ここを解決したい、といった感じで技術課題をピンポイントで出して頂いても、県内の中小企業側がそれに応えることはかなり難しいのです。大手企業ですら解決できないような課題を、中堅以下の規模の企業が解決できることはなかなか無いのが現状でしょう。そこで、少しでも解決できそうな技術を持っている県内企業を大手企業に紹介するという形で進めることになります。
また、企業の様々な技術的なニーズに対して、その内容を理解した上で県内企業を探索するには幅広い知識や情報収集能力も必要です。今後もこの取り組みを継続していくためには産業支援機関や公設試験研究機関などと連携することも重要であると考えています。
オープンイノベーション静岡として取り組みを進めやすい大手企業には、どんな特徴があるのでしょうか。
複数の部署から横断的に自社の開発ニーズを集約し、一元管理する体制を整えているような企業とは取り組みを進めやすいですね。最近ではオープンイノベーション関連施設を整備する企業も増えています。
今後も規模が大きい企業が外部から技術を入れるとなると、どうしても集中管理するような人や部署が必要になってくると思います。このような動きは、今後広まっていくのではないでしょうか。
今後の展望や予定などをお聞かせ下さい。
オープンイノベーション静岡としては、平成30年度に静岡県産業振興財団と連携して「サンスター株式会社技術ニーズ説明会」を県内で開催し、参加した企業が自社の技術を活かした提案を行ったところ、数件の面談に至っています。平成31年度も同様の説明会を複数回予定しており、マッチングの機会を提供していくことになっています。
また、今後はオープンイノベーションの潮流に乗り遅れないよう自らのニーズやシーズを発信し、外部にパートナーを求めるような県内企業も発掘していきたいと考えています。