静岡県

静岡県がマリンバイオテクノロジーによる産業振興の検討協議会を発足、世界の拠点を目指す

オープンイノベーションへの取り組み

  • 印刷
  • URLコピー
  • facebook
  • Twitter

2018年11月26日、静岡県は、駿河湾などにおける海洋由来の生物資源を活用した産業振興を進めるため、「マリンバイオ産業振興ビジョン検討協議会」を発足させ、静岡市清水区で第1回の会議を開催した。駿河湾は静岡県の海の玄関口であり、世界有数の急峻な海底地形を持つ。また日本一深い湾であり、最深部は2,500mに達する。生物多様性にも恵まれている。

バイオテクノロジーは、ゲノム解析技術やAI、IT技術などの進歩により、近年著しい発展を遂げており、健康・医療分野のみならず、工業や農林水産業など幅広い産業分野への活用が図られている。OECDの予測では、2030年の世界のバイオ市場が1.6兆ドル、日本円で約180兆円に成長すると見込まれており、ITと並ぶ21世紀の基幹産業になるものと期待されている。

また、「海洋」にも大きな可能性がある。地表の7割を占める「海洋」には、陸上にない特殊な環境で生きる生物が多数存在しているが、探査技術の発達により、これまで採取困難であった海洋生物資源も入手可能になり、今後、海洋に存在する有用な資源の発見が期待されている。

マリンバイオテクノロジーとは、微生物や藻類、魚類など海洋由来の生物が持っている働きを産業や環境など人々の暮らしに役立てる技術のことで、「バイオ」と「海洋」という2つの大きな可能性を秘めた分野である。

今回発足した協議会の目的は、駿河湾の特徴ある貴重な海洋資源を活用し、マリンバイオテクノロジーを核とするイノベーションを促進することにより、静岡県における多彩な産業の振興と創出を図るためのビジョンを策定することにある。

写真●マリンバイオ産業振興ビジョン検討協議会

写真●マリンバイオ産業振興ビジョン検討協議会

知の集積とオープンイノベーションの拠点へ

協議会には、静岡県に加えて静岡市、県内の金融機関や経済団体、はごろもフーズ、いなば食品などの企業、産業支援機関、東京工業大学、静岡大学、早稲田大学、東海大学などの大学、国立遺伝学研究所、海洋研究開発機構、水産研究・教育機構、理化学研究所などの研究機関が参加している。まさに産・官・学・金の力を結集した一大プロジェクトである。会長には、30年前に当時の通商産業省で海洋バイオテクノロジーのプロジェクトの推進役を担っていた、東京工業大学環境・社会理工学院教授の橋本正洋氏を迎えた。

協議会では、マリンバイオの中核推進拠点の設置について議論を行うほか、バイオ、デジタル、海洋などの幅広い研究者の集積や、研究者の海洋生物資源採取の支援、採取した生物資源を蓄積するライブラリーの構築などについても検討していく。

具体的な産業応用のテーマとして、短中期的には海洋微生物を活用した加工食品開発やバイオテクノロジーを活用した水産の種苗生産技術開発などが掲げられており、長期的には医薬品の開発(創薬)などを挙げている。

日本政府も総合科学技術・イノベーション会議の政策討議を受け、バイオ戦略ワーキンググループを組織し、バイオとデジタルの融合による経済社会像の実現に向けた戦略の検討を進めている。静岡県の取組も、こうした流れの一環として捉えることができよう。ちなみに、2019年9月9日~13日にマリンバイオの国際学会「Marine Biotechnology Conference 2019」が静岡市で開催される予定である。

マリンバイオの世界的拠点の形成を目指して

静岡県は、平成30年度内に「マリンバイオ産業振興ビジョン」を取りまとめ、平成31年度当初から、中核推進拠点の運営に当たる支援機関の設立や海洋生物資源のライブラリーの構築といった具体的な作業に入ることを検討している。マリンバイオテクノロジーを核としたイノベーションにより、「産業の振興・創出」はもとより、「人材の集積と育成」、「海洋をテーマとした地域づくり」、「世界への発信と展開」を推進し、この地にマリンバイオの世界的拠点を形成することを目指していく。

  • 印刷
  • URLコピー
  • facebook
  • Twitter