「組織を変える」とは「思想を変える」ということ
井上機工は銅管の加工が主力事業(図4)だが、銅管の加工技術を生かした独自製品の開発にも力を入れている(図5)。銅が本来持つ抗菌・殺菌作用を生かした手すり棒や、スマートフォン用スピーカースタンドなどだ。手すり棒は病院や介護施設で使われる。スピーカースタンドは、スマートフォンを銅製スピーカー本体の切り口に置くだけで、スピーカー用電源を使わずに音楽を楽しめる。スマートフォンの発する音を銅管内で増幅できるためである。こうしたユニークな新製品開発のアイデアはすべて同社の一般社員から提案されたものだ。
同社は女性や若手の活用にも積極的に取り組む。井上機工には管理職が30人いるが、その中で検査班長を務める女性社員や24歳で係長を務める若手社員もいる。「女性、若い人にもチャンスのある職場にしたい。やる気があればどんな人材でも活用していく。その活力が会社の利益や事業の拡大につながる」と期待する。
現在、佐野氏は34歳である。「自らが“若い”社長である、という感覚は全くない。日本経済が「失われた10年」とよばれた時期に青年期を過ごしそのなかで経済学を学んできた。会社経営は甘くはないと肌で感じている。同世代の社長たちが地域貢献によりCSRを実現しようとするのとは対照的に、まわりと一線を画して自力で成長を求める経営スタイルをこれからも貫いていく。」(同氏)。その経営手法は数字による実証と聖域なき改革への着手が特徴である。
図4●井上機工の主な製品
図5●抗菌・殺菌作用を持つ手すり棒(左)と電源が不要なスマートフォン用スピーカー(右)