静岡県は、食品・飲料・化成品・加工機械などの食品関連産業の振興と集積を目指すフーズ・サイエンスヒルズプロジェクトを推進している。同プロジェクトの推進拠点である(公財)静岡県産業振興財団フーズ・サイエンスセンターでは、2017年にサイエンスアドバイザーと販路開拓・拡大アドバイザーを設置。健康機能性を軸とした商品開発と販路開拓の支援を強化している。
静岡県経済産業部新産業集積課の担当者は、「アドバイザーを中心に、サイエンスの確立とマーケットの獲得をワンストップで支援する体制を整備した。県内企業と大学・研究機関の連携を促進し、食品の付加価値を高め、産業集積を図っていく」と話す。
県内産品のエビデンス確立を支援
重点事業の一つと位置付けるのが食品の機能性に関する科学的根拠(エビデンス)の確立。2015年に開始された国の機能性表示食品制度により、企業の責任で「おなかの調子を整える」「脂肪の吸収を抑える」などの機能性を商品に表示できるようになった。
フーズ・サイエンスセンターは、静岡県立大学と連携して、機能性表示に必要なエビデンス取得に向け、ヒト試験や論文分析(システマティックレビュー)の支援体制を整備。加えて、企業からの相談や消費者庁への届出支援に対応し、県内企業による機能性表示食品の開発を推進する(図1)。
図1●フーズ・サイエンスセンターの支援機能
牧之原市の荒畑園では同センターの支援のもと、同社初となる機能性表示食品「べにふうき」(緑茶)を商品化。「メチル化カテキンは、ハウスダストやほこりなどによる目や鼻の不快感を軽減することが報告されています」という表示で届出受理された。この他、同センターでは県内企業と連携して、水溶性食物繊維のイヌリン、紅茶の色素成分テアフラビンなど、機能性素材の開発にも力を入れ、成分分析等を行っている(図2)。
「静岡はミカンや茶、ワサビなどの農産品、サクラエビ、カツオ・マグロなどの水産品など地域資源に恵まれている。機能性を軸にこれら産品を用いた付加価値の高い製品の開発を推進することが、企業の競争力につながる。特に開発部門やマーケティング部門を持たない中小企業の場合、エビデンス確立だけでなく、消費者庁への届出や表示内容等のアドバイスまで含めて支援することが求められる」とサイエンスアドバイザーの南条文雄氏は話す。
図2●フーズ・サイエンスセンターの支援で誕生した商品例
商談に加え、マーケットインの商品開発を支援
「中小企業が抱える課題の1つが販路開拓」と指摘するのは、販路開拓・拡大アドバイザーの海野佳明氏。「センターの支援で作った商品を売上につなげるには販路拡大が欠かせない。県内中小企業の多くは商談の経験に乏しく、卸や小売への営業力が弱い。センターが、バイヤーとの引き合わせやプレゼンを仲介することで販売チャネルへの提案を強化している」(海野氏)と話す。
化粧品メーカー出身の海野氏は、人脈を駆使して、ドラッグストアや百貨店、スーパーマーケット、卸等への商談を積極的に設定。商品を売り込むだけでなく、商談で得られるバイヤーからの評価・助言を商品改良に役立てるなど、県内企業の支援に動く。
「県内企業の多くはプロダクトアウトの発想が中心。商談を通じて、市場ニーズが高い機能性や地域食材のトレンドなどを把握することが、マーケットインの商品開発につながる」(海野氏)と指摘する。
同センターでは、こうした機能性を軸とした商品開発と販路開拓の支援の他、人材育成を担う「総合食品学講座」、県内企業が手掛ける機能性素材情報を発信する「食の機能性データベース」など、ワンストップの支援体制を県内企業に提供している。