榎本工業

5軸加工機ベースのハイブリッド3Dプリンターを開発 積層方向を自在に変化、造形表面の高精度加工が可能

企業紹介

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樹脂を積層造形する3Dプリンターと、形成されたものの表面を滑らかに加工できるマシニングセンターを複合させたハイブリッド3Dプリンター「3D5X-α」を、榎本工業(静岡県浜松市)が開発した(図1)。同装置は5軸制御のマシニングセンターの切削機能と、FDM(熱溶解積層)型3Dプリンターのヘッドを備えた製品である(図2)。このため3D5X-αは、切削用スピンドルとプリンターのヘッドをX軸、Y軸の方向に移動させると同時に、造形用テーブル(ステージ)はZ軸方向の移動と同時に、B軸(ステージの載置面に対して平行な方向)方向の傾斜及びC軸(ステージの載置面に対して垂直な方向)方向の回転機構を合わせ持ち、それによって積層方向を縦横斜めと自由自在に変えることができる。

  • 図1●開発したハイブリッド3Dプリンター「3D5X-α」

    図1●開発したハイブリッド3Dプリンター「3D5X-α」

  • 図2●造形用基盤(ステージ)二つの方向に回転させることでいろいろな方向に積層・加工が可能

    図2●造形用基盤(ステージ)二つの方向に回転させることで
    いろいろな方向に積層・加工が可能

榎本工業は中堅企業で、1901年に銑鉄鋳物業として創業した会社である。1970年代に創業の鋳物事業から撤退し、省人化設備事業に転換した。売上高は15.4億円(2015年度)従業員数98人(2016年5月)である。主力製品は顧客の要求に合わせカスタマイズした組み立て装置、検査装置である。市販製品にはマシニングセンターなどの切削加工機がある。「切削加工機も大手企業と競合する領域を避け、大手企業が手の出し難いニッチな小型機分野に特化している」と、榎本工業で装置開発を担当する開発部長の川村健広氏は言う(写真)。今回開発したハイブリッド3Dプリンター3D5X-αも、そうした同社の戦略上の製品と言えよう。

写真●榎本工業開発部部長の川村健広氏(右)と同部課長の平田満氏(左)

写真●榎本工業開発部部長の川村健広氏(右)と同部課長の平田満氏(左)

中空な形状等をサポート構造なしで造形可能な世界初の装置

3D5X-αは、同社の小型5軸マシニングセンター「CVN-50」がベースになっている。3D5X-αの大きな特徴は四つある。第一は積層造形を5軸制御で行うことで、中空形状やアンダーカットのある形状をサポート構造なしで造形することができる。従来の3Dプリンターでは、アンダーカットのある形状を造形する場合、支柱に相当するサポート材が必要となる。造形後にそのサポート材を取り除かなければならなかった。

「例えば、スクリューを製作する場合、動力翼の造形には動力翼下にその翼を支えるサポート材も形成しなければならない。5軸制御なら回転、傾斜させることで翼を立てながら造形することができる。金属分野では5軸制御のマシニングセンターを使った3Dプリンターはあるが、樹脂分野では榎本工業が世界初だ」と川村氏は説明する。

また3D5X-αは積層方向を縦横斜めと自由自在に変えられる。このため、どの方向に対しても素材の持つ強度に近い値を実現できる。通常の3Dプリンターでは積層方向が一定であり、積層方向の強度が弱いという欠点があった。

第二は5軸切削加工の高精度な表面仕上げが可能であること。通常の3Dプリンターでは造形後の表面に積層ピッチに依存した段差が残り、造形表面を滑らかにするにはパテ埋め等の後処理作業が必要になる。3D5X-αでは、積層後に直ちに表面の切削加工を実行でき、積層造形、切削加工を繰り返すことでパテ埋め等の後処理作業が不要になる。

第三は、積層造形と切削加工の複合により段取り換えや後加工が不要になり、製造時間の大幅な短縮が図れることである。

第四はCADデータである。多くの3DCADで使える標準フォーマットのIGESやSTEPデータを基に積層造形部及び切削加工部のパスを作成し、高品位な造形用NCデータを出力することができる(図3)。通常の3Dプリンターで一般的なSTLデータは使用しない。「STLデータではゼロから造形することしかできない。3D5X-αなら途中からでも造形可能だ。それも3D5X-αの大きな特徴である」(川村氏)。

3D5X-αの機械仕様は最大造形サイズが150×150×300mmでZ軸解像度(積層ピッチ)が0.3mmである。マシニングセンターとしての仕様は、移動量(X/Y/Z軸)は425/135/320mm、ミリング主軸の最高回転速度が50000rpm。装置サイズは1355×755×1610mmである。

図3●積層・切削の工程、形状分解・編集が必要

図3●積層・切削の工程、形状分解・編集が必要

使いこなすにはCAD、CAMも含めて5軸加工機の知識が必要

3D5X-αは5軸制御のマシニングセンターをベースにしている。通常の3Dプリンターとは異なり、使いこなすにはCAD、CAMも含めて5軸加工機の知識が必要になる。「ボタンを押せば造形できるという単純な装置ではない。それなりのトレーニングが必要だ。5軸加工機の知識が不可欠になるため、2017年4月からモニター販売を開始し、市場の反応を見たい」と川村氏は語る。ビジネスモデルも工作機械メーカーである榎本工業らしく、インク(フィラメント)ビジネスではなく、機械販売を主体にすると同氏は強調する。事実3D5X-αでは、3Dプリンター用に市販されているフィラメントが使用できる。

榎本工業が最初に狙う市場は射出成形用樹脂型である。樹脂型は高い精度が要求されるうえに、冷却経路として中空構造が必要になる。そのため3D5X-αの特徴を生かすことができる。同社は樹脂型以外にも徐々に用途を広げ、将来的には年間20台程度の販売を目標にするとしている。

5軸制御マシニングセンター+3Dプリンター「3D5X-α」製品資料

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