ケーイーコーポレーション

高鮮度冷蔵システムが農業の「働き方改革」を実現 従来型のプレハブ庫では困難だった温度と湿度の安定化に成功

企業紹介

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産業用の圧力容器や熱交換器の設計製造を手掛けるケーイーコーポレーション(静岡市清水区)は、野菜や果物などの生鮮青果物を高鮮度で冷蔵できる「FCRシステム」(Fresh Control Refrigerator)を開発した(図1)。貯蔵可能期間が延びることで、青果物の収量や収穫時期の変動があっても出荷作業の平準化調整が容易になるため、同社はFCRシステムが農業分野の「働き方改革」実現にも寄与するとしている。

収穫された青果物を農業法人や食品会社が貯蔵する場合、「プレハブ庫」と呼ばれる業務用の大型冷蔵庫や冷蔵倉庫を使用するのが一般的である。ところが、従来型のプレハブ庫では、除湿機能があるため、扉を開閉しない場合でも温度は±10℃、湿度は約±10%ほどブレがある。そのため結果的に貯蔵する青果物の鮮度が低下しやすいという課題があった。例えば、葉物野菜を冷蔵庫に入れると、庫内の冷風によって葉の表面から水蒸気が放出される「蒸散」作用が起こり、野菜の水分は、徐々に失われていく。一般に、このように蒸散の激しい青果物の場合、貯蔵中の鮮度を維持するためには90%以上の湿度が最適とされる。

  • 図1●ケーイーコーポレーションが開発した「高鮮度冷蔵システム(FCRシステム)」。既存のプレハブ庫や保冷庫に「エアウォッシャー」や「ルーバー」を付加することで構成できる

    図1●ケーイーコーポレーションが開発した「高鮮度冷蔵システム(FCRシステム)」。既存のプレハブ庫や保冷庫に「エアウォッシャー」や「ルーバー」を付加することで構成できる

  • 図2●加湿しながら冷蔵する機能を「エアウォッシャー」で実現

    図2●加湿しながら冷蔵する機能を「エアウォッシャー」で実現

今回同社が開発したFCRシステムを使えば、プレハブ庫内の温度や湿度を一定に保てるという。従来のプレハブ庫で一般的な除湿機能ではなく、加湿しながら冷蔵する機能を FCRシステムでは「エアウォッシャー」により実現している(図2)。これにより、庫内の温度を設定温度に対してほぼ一定に、湿度を平均90~99%に結露なしで維持することが可能となった。静岡県農林技術研究所が同社と共同でケールを用いて行った鮮度保持試験では、水分減耗率、外観、硬さ、糖度、ビタミンC含有量といった主要な鮮度指標のすべてで、一般的な倉庫やプレハブ庫と比較してFCRシステムでは大幅な改善が確認され、採り立てに近い鮮度を5日間も維持できたとしている(図3)。

図3●静岡県農林技術研究所とケーイーコーポレーションが実施したケール鮮度保持試験の評価結果。水分減耗率と硬さは値が小さいほど良く、それ以外は値が大きいほど良い。

図3●静岡県農林技術研究所とケーイーコーポレーションが実施したケール鮮度保持試験の評価結果。
水分減耗率と硬さは値が小さいほど良く、それ以外は値が大きいほど良い。

FCRシステムは、既存のプレハブ庫や保冷庫に「エアウォッシャー」や「ルーバー」、「エアカーテン」といった機器を付加することで構成でき、プレハブ庫を新設する必要はない。同社はFCRシステムの高鮮度冷蔵技術の開発で特許を2件出願しているという。明治43年(1910年)創業の同社は「圧力容器や熱交換器の技術やノウハウを豊富に持っており、それがFCRシステムの開発でも有効に活用できた」(同社代表取締役社長の梶本丈喜氏)という。

FCRシステムは、同社が物流大手の鈴与や中部電力らと1993年から2018年までの間に実施した実証研究に基づいている。同社はその実証研究の結果から氷蓄熱技術に基づく「氷鮮庫」を開発、市場投入し、約50件の受注を獲得した実績がある。その後、2018年からさらに技術を改良し、オゾンによる制菌機能も備えるFCRシステムとして製品化した。現在もFCRシステムの機能充実のため、果実の貯蔵で重要な追熟を制御するためのエチレンセンサーやエチレンガス噴出機構などの開発を行っている(図4)。さらに、将来的にはAI化といった展開も同社は視野にいれている()。

図4●FCRシステムの概要(赤で表示した部分は現在開発中)

図4●FCRシステムの概要(赤で表示した部分は現在開発中)

年代 ステップ 開発の経過・計画 販売・その他の計画
2020 ~ STEP 3
<高鮮度冷蔵システム>

・AI化への展開を可能とするオゾンシステムとエチレンセンサーやエチレンボンベを具備した高鮮度冷蔵システムの製品化
・葉物野菜、トロピカルフルーツ、トマトなどの農業生産法人や植物工場などへのマーケティング
・海外のトロピカルフルーツなどを対象としたシステム販売
2018 ~ 2019 STEP 2
<高鮮度冷蔵システム>

・オゾンシステムを具備した冷蔵システムの開発およびエチレンセンサーの基礎技術構築
・葉物野菜の農業生産法人などを中心としたマーケティング
・トロピカルフルーツなどを対象とした海外展開のための市場調査
1993 ~ 2018 STEP 1
<氷鮮庫>

・中部電力、鈴与、ケーイーコーポレーションの3社による共同実証研究
・約50件の受注を獲得

表●FCRシステム開発の経過および計画

同社はFCRシステムを活用することで、葉物野菜、トマトなどの果菜類、果実などの生鮮青果物の貯蔵や出荷調整だけでなく、花きや静岡名産品のいくつかを高鮮度で保存することが可能となるとしており、農業法人や農園、農業協同組合などからの引き合いを見込んでいる。特に葉物野菜で代表的なコマツナ、チンゲン菜、ミズナ、ホウレンソウなどは、従来のプレハブ庫では蒸散作用によって一日で鮮度が低下することから、FCRシステムの導入により大きな効果が期待できる。FCRシステムは市場に投入してまだ日が浅いが、既に静岡県内の大手農園から受注を獲得するなど好調な出だしという。また、国内市場だけではなく「パイナップルの破棄率が30%にも上るマレーシアなど、東南アジアでも今後FCRシステムを市場投入していきたい」(梶本社長)としている。

(株)ケーイーコーポレーション「FCRシステム」製品パンフレット

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